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インターネットの自律性

インターネットはどの程度、生命的な自律性を持ったシステムなのであろうか? 生命的の意味でシステムが自律的である、とは、自分で自分のダイナミクスを組織化し、知覚やその行動パターンの決定を自分で行なっていくことである。例えば、進化ゲーム理論から生態系の振る舞いまで、「利己的なエージェント」の集団が示す協力集団現象がこれまでにさまざまに研究されている。利己的なエージェン トとは、自己の利益のみを追求するエージェントであるが、結果として集団に協調現象をもたらすことがある。こうした研究からのメッセージは、「利己的な エージェントであっても、ある力学系状態を作り出すことで柔軟性が生まれ、動的な協調状態が作り出せる」ということである。

本研究の1つの目的は、こうした力学系での考察を、インターネットに見いだし発展させることにある。インターネットのバックボーンをなすのは、パケットスイッチングネットワーク (PSN) である。そこで、例えば、PSNでよく用いられるTCP/IPプロトコルを、利己的な振る舞いをするがネットワーク全体としては効率をよくするエージェントと捉え、実際のPSNをエミュレートするモデル (ns-2)を用いて、パケット送信のメカニズムがどのように協調現象を作り出すかを分析している。

もう1つの目的は、インターネットの自律的な性質を明らかにしようとすることである。ソーシャルネットワークサービスを媒介としたユーザ同士のコミュニケーションを考えると、様々なユーザによるインタラクションがウェブの状態に作用して、ウェブページのコンテンツが変化し、ウェブ全体の構造が変化する。それは一人のユーザがコントロールできるものではなく、ウェブを徘徊する膨大な数のクローラー、更にはボットとの相互関係なども加味した様々な要素によって決定される。そこで、移動エントロピー(transfer entropy)を用いて、ウェブの中の情報の流れを捉え、情報の流れを決めている性質があるかどうかを分析している。