ウェブサイエンスとは?
ウェブが誕生して四半世紀以上が経ちました。現在、それは人々の生活に欠かせない社会・経済インフラへと発展し、人々の生活のさまざまな在り方を大きく変えています。「ウェブサイエンス」とは、ウェブの産みの親であるTim Berners-Leeらによって2006年に提案された科学領域です。2000年代になってソーシャルメディアの誕生がユーザとデータの膨大な増加に繋がり、非常に巨大で複雑なシステムに発展しました。また、最近では、仮想世界と現実世界が融合したミラーワールドが注目されています。ミラーワールドの登場により、人間によるデータだけでなくマシンが生み出す膨大なデータが、ウェブをさらに巨大で複雑なシステムとすることが予想されます。
ウェブサイエンスの研究は、非常に巨大で複雑な情報システムに発展したウェブを理解し、新しい価値やサービスを生み出すことを目的としています。Tim Berners-Leeは、2006年にScienceに掲載された論文の中で、ウェブサイエンスの「サイエンス」という言葉には2つの意味を込めたと述べています。1つは、コンピュータサイエンスのサイエンスです。コンピュータサイエンスは部分的に分析的なところもありますが、基本的にはsynthetic、作るということが主にあります。ウェブもまさに、エンジニアリングによって作られたものです。もう1つの意味は、物理や生物などのサイエンスです。巨大で複雑なウェブを理解するためには、ウェブを自然や生物のように捉えて理解するということが必要だ、ということです。ウェブサイエンスは、この2つのサイエンスのアプローチで、ウェブを理解し、新しいものを作っていこうという分野です。
ウェブサイエンス研究室の主なテーマは以下の3つです。
ウェブ社会分析(Web Social Analysis)
人間は多くの前提を共有しあって社会を構成しています。どのような前提からどのような全体性が現れるのか、様々な数理モデルや統計物理モデルを駆使して人間の社会行動をソーシャルメディアのデータを用いてモデリングし、その全体的性質や振る舞いを再現・発見していくことが目標としています。
ウェブ進化論(Web Evolution)
生物学と情報科学は非常に離れている学問分野に思われるかもしれませんが、実は、密接に関係しています。インターネットやウェブは、生物の生態系やその進化そのものです。最新の統計処理や機械学習手法を駆使し、ウェブやソーシャルメディアの進化メカニズムの解明を目指しています。
ウェブとフィジカルの融合(Web and Physical Integration)
フィジカル空間からのデータを取る技術が飛躍的に発達し、ウェブ(サイバー)だけでなく、フィジカル空間から取得されるセンサーデータが増え、これまでのウェブの技術や知見をフィジカルに活かす研究が注目されています。ウェブ・フィジカル空間を通して、人間と機械がインタラクトし、共に学習・共進化していく過程をとらえ、人間の創造性をより高めるような技術の開発を目指しています。